イクメン対談

中村憲剛さんとの対談、vol.2   と vol.3
アップさせていただきます!

――江口さんは実際ソーシャル・アーティスト・ネットワークで、虐待されたり育児放棄された子どもたちと触れ合っていらっしゃいますが、その経験を通して感じたことはありますか?

江口:「どんな親でも、親がいいんだ」というのは、触れ合って毎回実感します。私は未就学児を担当しているので、特にそう思いますね。親御さんも大変だと思うけど、なるべく抱っこしてあげてほしい。例えば、ヴァイオリンを教える時でも、抱っこしながら一緒に弾いたり。親の愛情に飢えてるんです。


――音楽界の方々にも色々と活動を呼びかけていると思うんですけど、反応はいかがですか?

江口:世界的に見ると、五嶋みどりさんという方が障害者たちのオーケストラを作ったりされていますが、そういう活動が少しでも日本で増えて欲しいと思います。

中村:皆でもっと色々な取り組みができればいいんですけどね。

江口:そうなんです。少しでもそういう動きがあればありがたいんですけど、なかなか難しいですね。自分の子どものことで精一杯なのはわかります。少し子どもの手が離れたくらいのお父さん、お母さんがやってもいいのかなとも思うんですけど。
でも中村さんの奥さまも、子どもの手がかかる時期によくやっていらっしゃって凄いなと思います。

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中村:支えてもらってばかりですね。ピンクアンブレラ運動は、もともと川崎フロンターレの虐待防止の仕事がきっかけで始まったんですけど、こうやって江口さんとお話したり、ソーシャル・アーティスト・ネットワークさんとつながったりと、少しずつ輪が広がっていけばいいんじゃないかと思っています。虐待に解決策はないですけど、自分たちが問題提起することで、減らせるきっかけにはなると思う。この対談も、まず2人が話したということが大事で、これを見た人が江口さんのHPに飛んだりすれば、つながりが広がっていきますよね。

江口:ありがたいですよね。

中村:皆、虐待は悪いことと知っていながら、あまりにも大きな問題だから足踏みをするじゃないですか。でも誰かがやらないといけない。音楽界とスポーツ界、ジャンルにこだわらずに皆で取り組んでいければと思います。

江口:施設の子どもが増えていってしまうのは、残念ですもんね。

中村:去年の年度末に、初めて川崎の児童養護施設に行きました。これからも機会を見つけて行きたいと思っています。スポーツ好きな子どもも多かったです。喜んでくれました。それだけでも自分が行く価値があるなと。それは江口さんの活動も一緒だと思いますけど。

江口:それはあるかもしれないですね。でもまだ分からないこともありますよ。子どもたちは「その楽器は何?」という次元なので、どこから教えようとか、まだ少し手探りな部分もあります。

中村:興味を持ってくれるのはいいことですよね。それがきっかけとなって、音楽家やサッカー選手を目指していってくれたら嬉しいし、その手助けができばいいなと思います。

江口:自己啓発や自己肯定感は何かに興味を持つことによって、育てられるんじゃないかという考えも出てきているので、是非そうなってほしいです。また、子どもたちと寝泊まりも一緒にされている職員の方がそういう風に理解してくださっているので、連携するのが望ましいんですけどね。具体的に子どもに何かやらせるのって難しいんですよ。

中村:本人たちにその意欲がないとだめですしね。でも僕たちが施設に行かなければ、身近にならないから、行動に移すことが大事なんだなと、去年の施設訪問の時に実感しましたね。

江口:ビッグなサンタクロースさんだったんですね。

――ピンクアンブレラの活動もちょうど1年くらいで、江口さんもこのような活動を始められて12年ほど経ちます。その中で、意識として変わってきたことはありますか?

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中村:最初の頃は、本当に手探りでした。色々やってきた中で簡単なことではないと改めて感じたけど、継続することが大切なのかなと。自分が手を挙げることで、この問題がどれだけ大きいかというのを皆に認知してもらいたいです。まだ始めて1年くらいですけど、多くのことを学びました。この対談もそうだし、こういう輪が広がればもっと色々なことができると思うので、僕自身この活動は一生ものだと思っています。少しずつですけど、江口さんと何か新たな活動ができるかもしれないし。

江口:12年くらい経ちますけど、ようやく社会とつながった感じがします。同時に12年もかかったってことですよね。自分たちのことを解決することで精一杯だったので。子どもが小さい頃は、手がかかるような経験や葛藤もありました。でも、ちょうど1年前くらいに自分のしたいことがやっと見えてきたと思っています。今後、継続していくのは大変だと思うんですけど、ずっと関わりたいと思ってます。

――これから母親・父親になるような人に向けたアドバイスはありますか?ひょっとしたら虐待しそうな気持ちになった時に、投げかけてあげられるような言葉があれば

江口:子どもと2人にならない方がいいと思います。その時間が長ければ長いほど、結局力って弱い方に行ってしまうんですよね。どんなに人間ができた親でも、1対1の時間が長くならない方がいいですね。どこか出かけたり、誰かに来てもらうでもいい。核家族も問題になる要因の一つだと思うので、必ず複数の人がいる場所にいてほしいと思います。

中村:できるだけ孤立しないことだと思います。自分が思っている以上に、周りには人がいると思うんです。もし虐待していたらそれを知られたくないだろうけど、誰かに声を出す勇気はすごく大事だなと思います。自分がその状況下にいないので、説得力がないと思うんですけど、どの親にも苦労や悩みはある。それをちゃんと話せる人がいてほしいと思います。仲が良ければなおさらいいし、なかったらそういう場所があれば、そこに駆け込む勇気を持ってほしい。

江口:近所に友達がいたり、近くの公民館を利用するとか。なるべく親御さんがいるところがいいのかな。おじいちゃん、おばあちゃんの存在はやっぱり大きいですね。

中村:あとは自分の子と他の子を比較しない方がいいと思います。それはすごく感じます。
他の子ができるのに、うちの子はできないという悩みが結構多いって聞きます。実際、そういう話も聞きますし。でも「今はそれでもいい」って思うことも必要。他の子がこうだから、うちの子もって考えてしまうと、強迫観念にかられちゃうので。

江口:私も最近まで自分のことに関してそうでした。自分でも「何でハードルを上げてしまうんだろう?」と思うんですけど、周りと比べていましたね。そこから先に卒業しないと難しいですよね。

中村:自分にできることって大体決まってるじゃないですか。サッカーでもそうなんですけど、自分のやれること以上を望むと大抵失敗するんですよ。

江口:本当にそう思います!

中村:この歳になって、普通に自分のできる100%をやることがすごく大事なんだと気付きました。若い頃は、ライバルの選手が気になったり、「あいつがこれだけやったんだから、自分もやらなきゃ」とか、余計だったと今は思います。ライバルにはライバルの良さがあるんだから、自分は自分の良さを発揮できればいい。多分それは、子育てでも一緒だと思います。背伸びはよくない。例えば他の子が足し算ができて、かけ算も言えるけど、うちの子はまだできないとか。そこまで悩むことはないと思えるようになってきました。

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江口:成長が遅れていても、そのことを「君の個性だよ」って受け入れてあげるのは、本当に難しい。やっぱり親はできた方が嬉しいじゃないですか。

中村:そこがすごく難しいですよね。できた方がいいけど、「できないならそれでいいんだよ」って言える親の度量がすごく大切。度量がないと、結局追い込むことになってしまう。僕も、矛盾しますけど、未だに「何でできないんだ」って言っちゃいますし。

江口:思いますよ。普通できるよねって思っちゃう。

中村:でも「普通って何?」って感じですよね。僕たちには普通でも、彼らには普通じゃないと認めてあげないとね。親になってまだ5年ですけど、葛藤の連続ですよね。

――それを親としては見守ってあげればいい?

中村:見守る一方で、無性に焦ったり(笑)。気をつけてはいるんですけどね。

江口:親も100%じゃないですから。

中村:僕ももう33歳ですけど、親になってまだ5歳ですからね。

江口:色んなことが初めてなんですよね。

中村:試行錯誤と言うか模索しながら今はやっています。子どもたちも、多分もう気づいてるかな(笑)。「こないだはこう言ってたじゃん」って言われましたからね。子どもは記憶力がいい。その瞬間に、子どもの成長を感じますね。そういうのを楽しめる余裕があれば、虐待の原因はひとつ減るんじゃないかな。金銭的、時間的な問題もあると思うんですけどね。

江口:現実的な問題がね。

中村:それを理解してくれる人がいるってことを、僕らが声を出すことがすごく大事なのかなと。

――江口さんから中村憲剛選手の活動に対して一言ありますか?

江口:お若いのに、素晴らしいの一言です。私が33歳の時は大変な時期だったので、その時の自分と比べたらすごい!と思って。

中村:周りのサポートのおかげですよ。

江口:それが言えるのがすごいですよ。是非、長く続けていってほしいです。

中村:今はサッカー界に対して、何か呼びかけたいなって思っています。今Jリーグは、全部で51チームあるんですよ。ほぼ全国各地にある。だから各クラブにこの運動が浸透していけば、日本中に回るじゃないですか。音楽も同等以上の力があると思う。

江口:数えだしたらそれくらいあるんじゃないかな。地方のオーケストラも数えれば、かなりありますよ。

中村:本当に、一歩踏み出せればいいですね。

江口:全然行けると思います。むしろ、行かないと。今日はありがとうございました!

中村:こちらこそ、ありがとうございました。今回の対談をきっかけに、一緒にやっていただきたいと思います。お互い、がんばりましょう。